Accipe quam primum

「この世の出来事は全部運命と意志の相互作用で生まれるんだって、知ってる?」

安冨歩『あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである。』

病院にあったので読んでみた。

安冨歩先生については女装の東大の先生という認識。いくつかネットニュースを読んだことがある。他人からしたら羨ましいすぎる成功人生でも実は親との確執が…ということだが、まあ私から見れば余裕でイージーでマジョリティな人生だと思う。でもそんなにネオリベ系の頭おかしいことを言っているわけではない印象だったので読んでみた。

 

本書の感想の前に、そもそもこの本に限らず自己啓発系の本に言っておきたい大前提がある。生きづらいのはかなりのところ、一部の人間に富と権力が集中し、大多数が自分を殺してそれに従わなければ生きていけない社会システムであること、また人間を人間として尊重する教育が十全になされていないことによるものだと思う。自己啓発系の本はほとんど自己責任論でしか話をせず、社会に目を向けないので読んだ後に不満と自責の念が残る。すぐにはどうしようもなくても、自己責任論はやめてもらいたい。それも日本の社会の硬直性を再生産していることにつながる。

 

本書の話に戻ると、著者はもともと恵まれたイージーモードな人生なので、お前に言われても…感は結構ある。 結局は、自分を大切にして、好きなことを見つけて、信用できる依存先をたくさん作って、なるべく自分を殺さずに生きよう。 ということだ。 

 

あとは覚えていることについての感想を箇条書き。病院の待ち時間で一読しただけなので間違いがあるかも。

 

・人間が生きるのに大切なのは次の3つだけだと書かれていたと思う。

 ・美味しいものを食べる

 ・気分の良いところに住む

 ・良い仲間と過ごす

これ、上2つはまだなんとかなると思うけど、問題は3つめだと思う。良い仲間を見つけるっていうのは生まれ育ちや性別や性格や環境によって、仲間が見つけやすいかどうかっていうのが決まってしまう。仲間を見つければいいんだ!と分かっていればどうにか頑張れて仲間が見つかってハッピーハッピーとはならないと思う。多くの大人がここで苦しんでいるんじゃないかと思うんだけど。気づいたら解決に向かえることってそんなに多くはないんだよな。

 

・人間は今の時代好きなように生きてもなかなか死ぬことはない、年に50万円あれば生きられる、50万円ならなんとか稼いでいけるだろう、というのだけど、それも男だからどうにかなるのでは?と思う。実際に月1万円の物件に住んで、美味しいもの食べて好きなことやって楽しい仲間と一緒に生きていくって女はちょっと無理だろと思う。相当な田舎か相当条件の悪いところに住まなくてはいけない。都会ですら厳しいのに相当な田舎にはより前近代な人間が多いので女が一人で生きていくのは簡単ではない。その一方で、今自分が毎月払っている数万円の家賃は高すぎるよなーってこともよぎる。日本の住宅政策もクソだと思う。

 

・追い込まれて無理して無理できちゃう人が成功する仕組みになっているっていうのはそうなんだよね結局。今のところ。そして競争を降りたからといって自分のペースで生きるのも簡単なことではない。こんな社会さっさとやめちゃえばいいのに。

 

・どうやってクソな労働慣行と付き合っていくかは、やっぱり労働者がすごく頭使って頑張らなきゃいけない印象を受けた。それができるなら苦労しない。それを強いられるから労働者はどこまでも弱者だ。仕事ができるというのはそういうことでもあるのかもしれない。なんかバカのふりをするみたいな、やりたいことを素直にやってはうまくいかない、社会の中で大きな存在にはならない、という感じはわからないではないんだけど、それはそれで結構センス、他の使えるバッファがあるという問題があるので自分がどうやれるか、どう折り合いをつけるかは難しい。

 

・まあ大筋他の自己啓発系の本が言っていることと同じだったんだけど、著者のパーソナリティによってプラスアルファ考えが及んだと思うので読んで良かったとは思う。

 

この日の診察で病院の先生はやっぱりプロなんだなと思った。あと頭がいいと思った。言葉に過不足がないので感心して満足してあまり詳しく自分のことを話さずにさっさと帰ってきてしまった。そういうこともある。